最近、同一労働同一賃金という言葉を耳にする機会が増えたと思います。しかし、その内容については、よく分からないという方も多いのではないでしょうか。
このコラムでは、同一労働同一賃金とは何かということを説明した上で、具体的にどのようなことに気を付けていけばいいのかということを書きたいと思います。
1 同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けた取り組みで、いわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指すものといわれています(平成28年12月20日付け同一労働同一賃金ガイドライン案参照)。
ここでのポイントは、2つです。
1つ目は、正規雇用労働者と非正規労働者との間の労働条件の不合理な待遇差の解消を目指すものであり、正規雇用者同士や非正規雇用者同士の労働条件の差は、ここでは対象とされていないということです。
2つ目は、待遇の中には、賃金だけではなく、賃金以外の手当や休日などの労働条件の含まれるということです。
2 同一労働同一賃金に対する考え方
では、具体的に、どのような事案が問題になるのでしょうか。
裁判例で問題になった事例としては、たとえば、トラックドライバーの方について、正社員には、無事故手当や給食手当、住宅手当などを支給していたのに、契約社員の方には支給していなかったという場合に、そのような待遇差が不合理といえるのかどうかという点が問題となりました(ハマキョウレックス事件参照)。
これについて、最高裁の判断枠組みを簡単に示すと以下のとおりとなります。
【最高裁の判断枠組み3ステップ】
【ステップ1】
正規雇用労働者と非正規雇用労働者の違いを3要素で検討
① 職務内容
② 職務の内容・配置の変更の範囲
③ その他の事情
【ステップ2】
問題とされる労働条件の目的・性質を検討
【ステップ3】
正規雇用労働者と非正規雇用労働者の労働条件の違いが、ステップ1で検討した3つの要素から説明することができるかどうかを検討
たとえば、先ほど参照例としてあげたハマキョウレックス事件(最高裁判決平成30年6月1日)では、最高裁は以下のように判断しました。
【ハマキョウレックス事件】
【ステップ1】
・ドライバーという職務内容に差はない
・正規雇用労働者は、転勤や出向の可能性があるが、非正規雇用労働者には、そのような可能性はない
などという差がありました。
そして、ステップ2として、それぞれの手当の目的や性質について以下のとおり判断しました。
【ステップ2】
無事故手当:有料ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の獲得を目的
給食手当 :従業員の勤務時間中の食事の補助
住宅手当 :従業員の住宅に要する費用を補助
この判断をもとに、ステップ3として、それぞれの違いが説明できるかを判断しました。
【ステップ3】
無事故手当:安全運転や事故防止の必要性について、両者に差はない
→ 不合理な待遇差である
給食手当:勤務時間中に食事をとることの必要性に、両者に差はない
→ 不合理な待遇差である
住宅手当:正規雇用労働者は、転勤や出向など、転居を伴う配置の変更が予定されているため、非正規雇用労働者に比べて住宅に要する費用が多額となりうるため、住宅手当を支給する必要性がある
→ 不合理な待遇差ではない。
2019年には、ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件の2判決が、2020年には、日本郵便事件(佐賀、大阪、東京)、大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件の5判決が、それぞれ最高裁で出たため、その内容を踏まえて、多くの会社で同一労働同一賃金について自社の労働条件の再検討が進められています。
3 同一労働同一賃金対策の進め方
以上を踏まえて、同一労働同一賃金対策の進め方に話を進めたいと思います。
大きくは、以下の6つの手順で進めていきます。
(1)従業員の雇用形態
まず、従業員を雇用形態ごとに確認を行います。
(2)待遇の状況を確認・待遇に違いがある場合、違いの理由を確認
その次に、それぞれの労働条件の待遇の差の有無とその内容を確認します。
そして、待遇に差がある場合には、そのような待遇差を行っている理由についても確認します。
(3)待遇の違いが「不合理でない」ことの説明できるように整理
そして、待遇の違いが、説明できるのかどうかについて整理をします。ここで注意が必要なのは、先ほどの最高裁の判断枠組みのところでも触れたとおり、各手当や労働条件の目的に照らして、その差が不合理でないという説明ができるかどうかです。
たとえば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、転勤などの有無に違いがあるとしても、その違いから通勤手当や精皆勤手当の支給に差をつけることが不合理でないと説明できるのかどうか、通勤手当や精皆勤手当の支給の目的から説明ができないといけません。
(4)法違反が疑われる場合は改善検討
そのように検討してみた結果、待遇の差が不合理であるという結論に達した場合には、労働条件の変更を検討する必要があります。就業規則の変更によって、労働条件を不利益に変更する場合には、労働契約法10条によって、一定の規制が及びますので、その点にも注意が必要です。
(5)取り組みの実施
以上をもとに会社として取り組むべきこととして以下の点に注意が必要です。
まず、同一労働同一賃金対策という消極的な目線ではなく、雇用区分ごとに人材活用のあり方・方針を策定することが重要です。
その中で、
① それぞれの雇用区分ごとの職務内容
② 職務内容や配置の変更範囲
を明確にすることが重要です。
諸手当についても、趣旨や目的を改めて社内で明確にしましょう。
非正規雇用労働者について、正規雇用労働への登用制度について検討することも大切です。
このような取り組みを通じて、パートや契約社員など、非正規雇用労働者も活躍して会社全体でプラスの方向に進める対策をとっていただきたいと思います。
- 同一労働同一賃金とは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の解消を求めるものである。
- 労働条件の待遇差が不合理といえるかどうかは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の①職務内容②職務の内容・配置の変更の範囲③その他の事情をもとに、各手当や労働条件の目的・趣旨を踏まえて、待遇差が不合理といえるかどうかを検討して判断される。
- 同一労働同一賃金対策を進める中で、正規雇用労働者だけでなく、非正規雇用労働者も活躍できる環境整備を心がけることで、会社全体をプラスの方向に進めることができる。