中小企業・成長企業は、大企業に比べて人事評価の明確な基準が設けられていない・そもそも評価制度自体を導入していない・企業規模の拡大に評価制度のアップデートが追いついていないなど、人事評価制度の整備が進んでいない傾向が一般的です。
また、大手企業のような精緻な評価制度を導入しても運用負荷が高すぎて使いこなせなかったり、形骸化して定着しないケースも頻繁に起こっています。
企業の成長ステージの変化や環境変化に柔軟に対応しながら、社員と企業の成長を促す人事制度を検討する際の観点や運用のポイントについて、考察してみます。
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1:組織の成長ステージと人事制度の必要性
少し古いデータではありますが、厚生労働省の「雇用管理調査(H14年度)」によると、企業規模100人を超える企業の7割以上、同300人を超える企業の8割以上で人事制度が導入されています。一方、企業規模100人未満の中小企業での人事評価制度の導入率は4割弱となっています。雇用管理調査は現在終了しており、直近のデータは存在していませんが、実感的には現在も大きな変化はないと思われます。
人事制度導入が必要なタイミング(企業規模)とは?
人事制度などの諸制度の導入のご相談は、社員が「30-50人」に差し掛かる頃に頂くケースが多いです。
この規模になると、以下のような問題が起きはじめ、経営者が人事制度の必要性を実感する機会が多くなるからでしょう。
- 社員数が多くなり経営者が全員の仕事を管理・把握できなくなる
- 経営者と現場のコミュニケーション機会が減る、偏る
- 多様な価値観を持った社員が増え、初期メンバーと途中で入社した社員に意識の壁ができる
- 仕事量の拡大により、1人あたりの業務過多・人員不足に陥る
- マネジメントや育成ができる人材が必要になるが、適任者がいない
- 会社の方針に合わない等の理由で、離職者が増える
- 経営者や社員のツテを頼った採用に限界が出始める
30名程度までは経営者が直接ミッション・ビジョン・バリューや会社方針、日常の仕事のOK・NGの基準を伝え続けることで、組織の一体感や従業員のやりがいは比較的保たれやすいですが、それを超えると物理的な限界に直面します。
30名~50名を超えるタイミングでは、社長に近い熱量・考えをベースにメンバーに伝えていく他経営層・ミドルマネジメントや、社長が伝えてきたことや評価の基準を明文化・仕組み化して、目線合わせをしていくことが重要になってきます。
2:中小・成長企業の人事制度設計のポイント
中小・成長企業に限ったことではありませんが、人事制度の導入時には、人事制度によって何を実現したいのかという目的をしっかり見据えて検討・設計することが重要です。
特に、自社のミッション(※自社の社会における存在意義・果たすべき使命)・ビジョン(※将来こういう会社でありたいという展望)の実現に向かう「中長期方針や計画の実現」につながるものになっているか、会社として期待する「期待役割」や大事にしてほしい「価値観」がわかりやすく示されているものになっているかという観点は必要不可欠です。
この点が明確に示されていることにより、人事制度が単なる処遇決定のための仕組みでなく、社員の成長意欲を引き出し、会社の業績を高めるツールになり得ます。
以下、人事制度の構成要素として重要な要素の中でも、上記の必要不可欠な2つの観点に関するポイントをまとめてみます。
まず、①会社の戦略・業績マネジメントのための目標管理について、次に、②自社として大事にしたい価値観を浸透させるための「バリュー」の定義・活用、人事制度の骨組みとなり従業員に期待する行動を示す「等級制度」の設計について、記載します。
①【戦略・業績マネジメント】会社の方針・戦略と紐づいた目標管理制度の運用
ミッション・ビジョンに基づいた会社の中長期方針・戦略に向かって、従業員の目線を合わせて力を結集するには、各組識のビジョンや目標を一人ひとりの従業員の目標として展開していく「目標管理制度」が有効です。
目標管理制度のポイント
1.目標連鎖
個々人の目標の総和が、組織としての目標達成につながる。
2.目標設定
個人が担う役割レベルに応じた目標設定を行う。(高い等級の社員には難易度の高い目標を設定する)
個人の主体的な参画が重要。
3.結果評価
事前に設定した達成基準に従い、環境要因の変化を考慮しつつ、目標の達成度を評価する。
フィードバックと振返りが重要。
目標を設定するうえでのポイント
②【バリュー・行動マネジメント】会社として大事にしたい価値観・各人に期待したい役割行動の定義・浸透
バリューの明確化と評価への反映
ミッション・ビジョンを実現するために、従業員に大事にしてほしいバリュー(価値観・日々の行動の判断基準)を明確にすることは、会社と従業員の方向性を一致させるために効果的です。
自社として大事にしたいバリューを明確にすれば、人事評価の際に、最終的な成果だけでなく、成果に至るプロセスの中で、自社のバリューに沿った行動が実践できているかを評価の基軸とすることもできます。
バリュー評価
「バリュー評価」とは、企業の価値観や行動基準(バリュー)をどれだけ実践できたかを評価するもので、導入にあたっては以下のようなメリットと注意点があります。
- 企業と従業員の方向性を一致させ、従業員の企業方針に沿った行動を促す。
- 組織力を強化する。
- 成果や業績のように客観的な数字で表しにくいため、評価基準を管理者同士、管理者-メンバー間ですり合わせる場を持つ。
- 評価の場だけでなく、他でもバリューを意識させる機会を意図的につくる。
(採用広報・面接時、導入研修、表彰、社員総会などの会議体 など)
階層毎の期待役割を示す「等級制度」の設計
「等級」は、能力・職務・役割などによって従業員を区分し、序列をつけるもので、評価や賃金・育成制度などの基軸となります。
1.等級を区分する軸を決定する
何によって従業員を区分するかは、自社が大事にしたいバリューに基づいて決めるべきですが、成長途上の中小企業などは、年齢や在籍年数によらず「役割」で序列をつける「役割等級制度」がフィットすることが多いです。
2.等級の段階数を決める
等級(階層)数については、細かく刻みすぎると、上下の違いがわかりにくくなったり、運用が煩雑・複雑になるため、30-50名の場合2~3階層、100名未満であれば4~5階層が現実的でしょう。
3.設定した等級への期待役割を設定する
各等級の社員が何を求められているのかが網羅的に記載され、イメージできるレベルであることが理想です。
また、職種を複数にわたり設定すると運用が煩雑になるため、少人数のうちは全社共通定義、分けても3職種程度が運用しやすいと思います。
さらに、各等級共通で何らかフレームを持って求める役割を整理すると、上下の違いがわかりやすくなります。
<フレーム例>
・PDS(戦略・計画立案、業務遂行、改善・改革)
・バランススコアカード(財務・顧客・業務・学習と成長)
<等級毎の役割例>
その他制度の設計
今回は報酬(賃金)制度などその他制度についての詳細には触れませんが、どの評価要素をどの賃金(月例給・賞与など)に反映するか、どのような割合で反映するかなども、会社の価値観を伝える重要なメッセージとなります。
3:地道な運用・改善を繰り返す
人事評価制度はあくまでも仕組みなので、導入しただけでは機能せず、その後の運用努力・工夫が人事制度の成否の8割を決定します。
どんなに精緻な基準を設定しても、評価が人の主観の影響を免れないことを認識し、毎回の丁寧な評価基準のすり合わせや、制度が狙い通りに機能しているかのモニタリング・修正を丁寧に行っていく地道な運用努力が求められます。
- 自社が描くミッション・ビジョンの実現に向けて、方針・戦略や組織の計画・目標と個人の日々の目標がつながっているか?従業員に求めたい価値観や行動が明確に反映された人事制度になっているか?を念頭に、シンプルに人事制度を設計・点検する。① 短期的に実現すべき成果=目標管理・成果(業績)評価など
② 常に大事にしたい行動・価値観=バリューの定義・評価など
③ 各階層に求める役割=等級毎の役割定義・役割遂行評価など - 一貫性のある設計は大事だが、更に重要なのはそれを従業員にわかりやすく、粘り強く伝え続けながら、管理職の運用力を強化すること。人事制度が狙い通りに運用されているかをモニタリングしながら、修正し続けることが必要。
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